試用期間の平均は今も昔も「3ヶ月」なのか?「6ヶ月」や「1年」が存在する理由とは

正社員に限らずアルバイトやパートには雇用契約を結んでから「試用期間」が設けられることが多くあります。これは該当する仕事へ正式に採用するかどうか、この期間中に見極めるというものですが余程の事がない限り、試用期間中に解雇されることはありません。試用期間が全く無い、いきなり本採用という会社もあれば「6ヶ月」や「1年」という長期で設定しているところもあります。最も多い試用期間は何か、多く設定している会社の意図を考えてみましょう。


試用期間における法律上の解釈について

内定をもらい働く前に、労働者と雇用者との間で「労働契約」というものが交わされます。そこにはどんな条件でどれくらいの給料がもらえるのかといった、労働の条件が記載されています。試用期間が設けられていない求人もありますが、別途存在する場合はその労働契約に書かれている必要があります。それは下記の「労働基準法」に明記されています。

第十五条 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。

出典:労働基準法第十五条 電子政府の総合窓口e-Gov

ここの「労働条件」という中に「試用期間」が適用されます。求人票や契約書のどこにも「試用期間」という言葉が書いておらず、事前に面接での説明も無く入社後に知らされる場合は「労働基準法第十五条」に違反していますので、労働局もしくはハローワークへ相談しなければなりません。

最も多い試用期間は3ヶ月、これより多い会社は注意すべし

試用期間の統計データは少ないので順を追って確認していきましょう。まずは2001年のデータです。東京都新宿労政事務所の資料を厚生労働省が公開しています。

これによると「試用期間3ヶ月」が66.8%となっており、3ヶ月以下で括ると実に「83.9%」が3ヶ月以下の試用期間となっています。

もう1つのデータを見てみましょう。厚生労働省の「雇用・賃金福祉統計室」が担当した2004年の「雇用管理調査」です。

少し分かりやすいように業種別や合計値は省いています。赤枠で囲ったところを見てみると、試用期間が6ヶ月以上(6ヶ月を含む)は合計しても10%を超える会社規模はありません。ただし2桁以下の従業員の会社規模で「無回答」がかなり多いのが気になります。

しかしこれ以下の試用期間が50~70%を占めているのも事実です。残念ながらこの統計データは2004年をもって調査廃止となりました。最後に紹介するデータは2014年の統計です。

これは「独立行政法人労働政策研究・研修機構」が発表した「従業員の採用と退職に関する実態調査」50人以上常用雇用がいる民間企業5,964社のデータです。

これによると「試用期間6ヶ月以上」を採用している企業は大体15%~20%程でした。以前より少し増えてはいますが、「試用期間3ヶ月以下」は大体65%~75%ですので大半が3ヶ月というのは間違いありません。

私は会社の人事担当をした経験や、数千件単位で求人を見ていた事も含めると現在でも試用期間「3ヶ月」が圧倒的に多いのは揺るがない事実です。元々なぜ3ヶ月が多いのかは、トライアル雇用という企業がもらえる助成金の制度があります。その期限がお試し期間というもので「最大3ヶ月と設定されているから」というのも理由の1つではあります。

なぜ3ヶ月より多く(6ヶ月・1年)設定している会社があるのか

試用期間は「3ヶ月」が最も多く設定されていますが、中にはそれ以上に設定している会社があります。試用期間に対する明確な法律は現在のところありませんが、「厚生労働省労働基準局監督課」が作成した「厚生労働省モデル就業規則」でこのような記載があります。

試用期間を設ける場合にその期間の長さに関する定めは労基法上ありませんが、労働者の地位を不安定にすることから、あまりに長い期間を試用期間とすることは好ましくありません。

出典:厚生労働省モデル就業規則

試用期間が長くなる事で、働く者にとってメリットは1つもなく、デリットだらけです。逆に言うと企業にとっては解雇しやすくメリットだらけで、唯一のデメリットはあまりにも試用期間が長い場合、自社の求人への応募が減少する事です。

企業側からすると3ヶ月の期間だけだと、いわゆる「猫を被る」という本性を隠して上辺だけで仕事をされるとどういう人物か見抜けないためです。さすがに半年や1年演じきるのは難しいでしょう。そして通常の雇用後に解雇するのと、試用期間中に解雇するのとでは解雇のしやすさに差がある為です。企業にとって首を切りやすくなる期間は「少しでも長い方がいい」ということです。

しかし労働者には生活があります、養う家族がいたりローンの支払いがあったりと雇用がどうなるのか不安なまま仕事をするのはつらいところです。6ヵ月後、12ヶ月後に「仕事が出来ないから解雇」と言われると、生活に支障が出てきます。これは企業側が労働者の雇用を守るという認識をしていないから長くできるのであり、試用期間が長いことは労働者にはプレッシャーがずっと続き、きつい会社と言わざるを得ません。

落ち着いて腰を据えて仕事が出来ない会社では、優秀な人材は試用期間の長さから敬遠し(但し給与が高いなど雇用条件が良いなら話は別)業績も上がりにくく、離職率も高くなります。試用期間中は給与をかなり下げたり、時給で働かせるところも多いので余程行きたい会社でない限り受ける事はオススメしません。求人票に「試用期間」について記載が無かったり、「試用期間あり」とだけ書いて日数を書いていない、そういった所は求職者目線でないのは求人票から明らかです。

せこい求人のカラクリ、最近増えている「迂回雇用」について注意すること

こんな求人が最近増えています、見たことがある方もいるのではないでしょうか。私は勝手に「迂回雇用」と名付けました。

正社員で募集している求人で採用後は「アルバイト・パート」として6ヶ月働いた後、試用期間3ヶ月を経て正社員での採用、といった求人です。他にも採用後に試用期間6ヶ月働き、その後アルバイトとして6ヶ月働き、その後に正社員として採用、というものです。つまり正社員までの道のりに「余分な雇用契約」が入っているのです。

正社員までの日数を見れば「9ヶ月」や「1年後」に正社員として正式に採用されるらしいのですが、これは異常です。極力正社員として採用はしたくないが「餌(えさ)」が無ければ釣りはできないので、正社員という名の餌を用意し、何かあれば言いがかりを付けて途中で正社員前に辞めさせることができる、という企業の魂胆が見えます。

正社員採用の場合、事前に「アルバイトと試用期間」のダブルで迂回雇用を挟むような求人に応募するのは避けたほうが良いでしょう。